ビールの歴史5 19世紀から20世紀前半のアメリカ〜ラガービールの広がりと禁酒法の成立〜

アメリカンラガーの広がり

イギリスからの移民によってアメリカにビールが持ち込まれ、次第に広く飲まれるようになっていきましたが、19世紀半ばから多くのドイツ人がアメリカに渡るようになり、ドイツで発展したラガービールの製法もあわせて持ち込まれました。

それ以前は、イギリスからの移民によってアメリカにビールが広がったため、イギリスでよく飲まれていたエールやポーターといったスタイルのビールが主流で、かつ基本的には各地の地元の醸造所で小規模に作られていました。

ラガービールは、低温で長期間熟成して作られ、エール等と比べて爽快で飲みやすいという特徴があったため、アメリカでも人気となりました。また当時のドイツはビールの醸造技術において世界最先端であり、かつラガービールは味の均一性が高く、製造工程が標準化しやすかったこともあり、いち早く工業的な大量生産も行われました。また、19世紀後半にアメリカで鉄道網が急速に拡大し、全米各地に流通させることが可能になったこともあいまって、瞬く間にアメリカ全土にラガービールが定着するようになりました。

1880年代には全米のビール醸造所の80%以上がドイツ系移民によって運営されていたというデータもあります。バドワイザーやクアーズといった有名なアメリカのビールも、ドイツ系移民の企業によって造られました。

なお、ケンタッキー州の工業都市であったルイビルにもドイツ系移民が多く住みラガービールの需要がありましたが、低温での長期熟成が必要なラガービールの製造に、温暖なケンタッキー州の気候が合わないという課題がありました。そこで現地の醸造所が、ラガーに味わいが近く現地の気候でも造りやすいケンタッキー・コモンというエールスタイルのビールを産み出しました。

禁酒法の成立

18世紀後半から19世紀にかけてアメリカ各地で都市化が進み、都市では貧困や犯罪の増加が問題となる中、飲酒が貧困や犯罪の原因になっているという考えが強まり、「節酒運動(Temperance Movement)」が広がりを見せるようになりました。19世紀半ばまでに節酒運動のために多くの宗教団体や市民団体が設立され、最大の団体の会員数は、150万人にも達していたとされています。

「節酒」という言葉通り、各団体は、当初は節度ある飲酒や飲酒量の抑制を目的としていましたが、次第に完全な禁酒(abstinence)社会の実現を目指すようになり、節酒運動は禁酒運動へと変化していきました。そうした団体が連邦議員に酒の販売を規制するよう働きかけたこともあり(ロビー活動)、禁酒は次第に重要な政治のテーマとなっていきました。

1861年から1865年の間に行われた南北戦争の後、アメリカ各地ではさらに都市化が進み、それとともに貧困と犯罪がさらに増加していく中、飲酒がそうした問題の原因であるとする考えがいっそう広まり、禁酒の機運が高まっていきました。そして、1914年に第一次世界大戦が始まり、1917年にアメリカがドイツを敵国として参戦する頃までには、アメリカの主要なビールメーカーはドイツ系移民が設立していたため、ビール=親ドイツ=悪とみなされるようになったことも、禁酒への動きを後押ししました。

その結果、 1917年に酒類の生産・輸送・販売を禁止する合衆国憲法修正第18条がアメリカ連邦議会を通過し、1919年1月16日までに合衆国憲法の修正に必要な、全州の4分の3の数の州が批准し、1年後の1920年1月17日に禁酒法が施行されました。

禁酒法の下では、アルコール度数0.5%以上の飲料が酒類とされ、生産・輸送・販売が禁止されました。大手のビールメーカーは、アルコール度数0.5%未満の現代でいう低アルコール・ノンアルコールビールや、ソフトドリンクを製造し、どうにか経営を維持しましたが、中・小規模の醸造所は廃業せざるを得なくなりました。

連邦禁酒法は1933年に廃止されますが 、閉鎖に追い込まれた多くの中・小規模の醸造所は復活することなく、大手メーカーのみが生き残り、クラフトビールの動きが広がるまで、アメリカでビールといえばアメリカンラガー一択という時代となりました。

禁酒法廃止とアメリカにおけるクラフトビールの発展については、次回取り上げたいと思います。

【参考文献】
Hourly History. (2016). Prohibition in the United States. Hourly History.
History.com "How 19th-Century German Immigrants Revolutionized America’s Beer Industry" https://www.history.com/articles/beer-history-german-immigrants-american-beer-industry-schlitz-pabst.